谷中・桜木・上野公園裏路地ツアー　渡部温･渡部朔

渡部温（わたなべおん／たづぬ／ゆたか）　　　　天保8年6月10日～明治31年8月7日(1837-1898)

　　　　英学者。幼名、圭一郎。名、一郎・(維新後に)温。号、知新・格堂。書屋号、無尽蔵主人。父、幕府徒士渡部重三郎(白鴎)(長男)。妻、佐多。義弟に成沢知行(佐多の弟)と山口鋠がいる。長崎出身。嘉永7年(1854)父の異動に伴い伊豆下田に移り、安政の大地震で大津波に遭う。英語・蘭学を学び安政6年(1859)神奈川奉行所書物見習いとなり、万延元年(1860)横浜英学所でヘボンらに英語を習う。文久元年(1861)蕃所調書の英学句読教授出役。慶応3年(1867)開成所調役・教授並。維新では、「中外新聞外篇」を刊行し、佐幕的論説を掲載。明治維新後は、沼津兵学校の英語教師。明治4年(1871)明治政府に出仕。大蔵省などを経て明治8年(1875-1877)東京外国語校長。退官して、漢学を研究、「訂正康熙字典」を刊行。その後、渋沢栄一らと共に東京製綱株式会社の設立に参画、また、東京瓦斯・横浜船渠などの創立に参加し、重役・社長を務める。東京府会議員・東京市会議員・牛込区会議員。著訳書：「陸軍士官必携」、「通俗伊蘇普物語」。とくに明治2・3年の沼津兵学校教授らによる数十冊の本は「沼津本」と呼ばれ、我が国最初の「富国論」と言われる。イソップ物語を翻訳した「通俗伊蘇普物語」はベストセラーとなり、財をなした。

渡部　朔(わたなべさく)　　　　　文久2年～昭和5年3月11日(1862-1930)

　　　　　東京府会議員。父、渡部温(長男)。明治13年(1880)内務省感農局に入る。ついで農務省に異動。明治22年(1889)農務省技師補となりドイツに渡る。明治24年(1891)帰国し、農務省技師。明治26年(1893)農事試験場技師兼務。明治29年(1896)貿易品陳列館商議委員。明治32年(1899)実業界に転身。日本塗料社長。亜細亜護謨・日本電気黒煙取締役。東京カーボン・東京瓦斯・東京製鋼各監査役。東京府議会議員。従六位。69歳。

渡部康三(わたなべやすぞう)　　　　　明治13年5月26日～昭和27年4月17日(1880-1952)

　　　　　音楽家(コルネット奏者)･事業家。父、渡部温(二男)。兄、渡部朔。妻まき子は、春木義彰の四女(明治20年5月2日～昭和10年9月26日)。東京音楽学校卒業。在学中の明治34年(1901)3月31日に奏楽堂で行なわれた瀧廉太郎渡欧送別演奏会で、当日唯一の管楽器奏者として出演し、フランツ・アプト作曲「森の朝」を演奏。明治36年(1903)柴田環(後の三浦環)の出演したオペラ｢オルフェウス｣の演奏に参加。のち、実業界(造船業)に転ずる。72歳。長男渡部正輝。

墓は、谷中霊園　甲8号15側。さくら通りに面する。正面｢渡部家之墓｣。墓誌は、複数ある。